PSI計画連携の仕組みをサプライチェーン全体に拡張していくための考慮点

ここでは、PSI計画連携の仕組みについて、今回はサプライチェーン全体に拡張していくための考慮点を考えてみたいと思います。

まず初めに、サプライチェーンの全体像をどのように捉えるべきか考えておきたいと思います。ここから先、検討を進める上で理解のしやすいイメージとして、「図5-1サプライチェーンの全体像」のような見方で説明を進めていきたいと思います。

図5-1. サプライチェーンの全体像

「図5-1. サプライチェーンの全体像」の見方は、横軸が時間軸。縦軸がサプライチェーン上の事業単位(言い換えれば、登場人物)になります。
そして、事業単位(登場人物)の並び順は、図にもあるとおり、縦軸の一番上は最終消費者で、上から下へ、最終消費の市場に近い事業単位(登場人物)から供給サイドヘ順に「最終消費者」、「実需 前線店舗(小売店)」、「直接・間接 流通チャネル」、「メーカー各国事業会社」、「域内統括会社」、「供給拠点マザープラント」、「基幹部品サプライヤー」というように、サプライチェーン上の主要な登場人物を順に定義しています。
そして、それぞれの事業単位(登場人物)が行うビジネス・プロセス、処理のタイミング、処理の内容を定義します。ここで、物流と商流と情報流(PSI計画情報)という3つの流れで見ていく事でサプライチェーン全体の動きを俯瞰することができます。
なお、図5-1の図中、域内統括会社とは、欧州、北米、南米、中国、アジア、アフリカといった地域を統括する事業単位を指します。また、メーカー各国事業会社とは、例えば欧州統括会社の場合、その配下にある英国社、ドイツ社、フランス社、ベルギー社、オランダ社、イタリア社、スペイン社等々、域内の各国に事業会社が展開されていることを想定しています。

前回の記事では、サプライチェーン上の親子関係 ( 需給関係 ) にあるPSI計画間の整合性をとるためには、以下の3つの要件を満たすことが有効であることを簡易デモを通して説明しました。
●ロット積上げ方式PSI(Lot Loading PSI)
サプライチェーン上の共通計画ロット単位(Common Planning Lot Unit)
●週次の時間単位(Weekly Time Bucket)

つまり、サプライチェーン上のすべての事業単位(登場人物)を対象に上記の要件を満たすようにPSI計画を実装し、前後するPSI計画間の整合性を取ることができれば、サプライチェーン全体をカバーするPSI計画の相互連携機能を実装できる、という仮説を定義できます。

前回の記事で説明したPSI計画連携の仕組みは、供給拠点(マザープラント)と各国事業会社との間のPSI連携でした。これは「図5-2. 流通チャネルを活用するサプライチェーン」の図中、黄色の四角で示す部分で、検証用に簡単なデモをPythonで実装しました。
今回は、各国事業会社とその先の流通チャネルと最終消費者の間(赤枠の部分)を対象に、どのような考え方でPSI計画モデルを定義すれば、PSI計画間の整合性を確保することができるのかを見ていきたいと思います。

図5-2. 流通チャネルを活用するサプライチェーン

ここで、各国事業会社から先の流通チャネルには、
●メーカーの直販チャネル
●特定の地域・市場セグメントをカバーする販売代理店、間接チャネル
●ネット通販などの最終消費者向けダイレクト・チャネル
などがあり、それぞれの流通チャネルが混在している状態が想像できます。

「図5-2. 流通チャネルを活用するサプライチェーン」の赤枠の部分は直販、間接販売の流通チャネルが存在することを想定しています。
一方、「図5-3. 最終消費者に直送するサプライチェーン」では、例えば、amazonや自社通販チャネルなどのダイレクト・モデルを想定して、各国事業会社の物流倉庫から最終消費者に直送するため、図の赤枠の中に事業単位(登場人物)は存在しません。

図5-3. 最終消費者に直送するサプライチェーン

このような、いくつかの流通チャネルが混在するサプライチェーンをどのようにPSI計画でモデル化していけば良いか考えてみたいと思います。
結論としては、「それぞれの流通チャネルの違いは、チャネル内にどのくらいの在庫が滞留しているか、在庫滞留期間の違いとして表現できる。」という考え方で、複数の流通チャネルが混在する状態をPSI計画のモデルに置き換えることができると思います。

例えば、「図5-4. 流通チャネルの違いをPSIの在庫滞留期間で表現する」に示すとおり、製品の在庫滞留期間の長短で、それぞれの流通チャネルの特性をPSI計画上で定義することができます。
つまり、1つの流通チャネルに対応する1つのPSI計画モデルを定義するという、非常に荒いPSI計画モデルではありますが、こうすることでサプライチェーン内のPSI計画間の整合性を確保し、サプライチェーン全体をカバーする計画機能を実装することができると思います。

なお、図中の実販Sell-In、実需Sell-Out(またはSell-Through)は、需要の発生場所の違いで、実販Sell-Inは販売会社の出荷売上ポジション、実需Sell-Outは最終消費者が実際に商品を購入したポジションを指します。
余談になりますが、販売会社の仕入れ担当者が、自社の足元の出荷実績だけをみて、仕入と出荷を進めているうちに、最前線の市場では思うように商品が売れずに在庫が積み上がっていた、という状況は少なくない話で、実需sell-outの動きと市場の在庫滞留の変化には十分な注意が必要になります。

例えば、間接チャネルの場合には、
販売代理店とその小売店で構成されているので、間接チャネル内に滞留する在庫量も多く、筆者の経験からは、滞留在庫の期間は4週間~8週間分程度の在庫が滞留していると想定されます。

直接チャネルの場合には、
販売代理店や小売店は存在せず、自社の直販店のみで構成されるので、直接チャネル内に滞留する在庫量は少なく、例えば、在庫の高さは2週間程度の在庫が滞留していると想定されます。

最終消費者向けダイレクト・チャネルの場合には、
ネット注文、即出荷という対応であることから、滞留する在庫はほとんど無しで、主に物流の移動時間となることから、在庫滞留期間は1週間程度の在庫が滞留していると想定されます。

図5-4. 流通チャネルの違いをPSIの在庫滞留期間で表現する

このように、流通チャネルのPSI計画モデルを定義し、それぞれの流通チャネルの売上比率で、複数の流通サプライチェーンを表現します。
例えば、
●メーカーの直販チャネル 50%
●販売代理店経由の間接チャネル 20%
●ネット通販のダイレクト・チャネル 30%
という考えかたで、流通チャネルの混在をモデル化します。

以上、今回は「PSI計画連携の仕組みをサプライチェーン全体に拡張していくための考慮点」について説明させていたたせきました。

次回は、今回説明したの流通チャネルのPSI計画をPyhtonで実装して、その後、サプライチェーンを繋いでいく簡易デモをご紹介したいと思います。